Preview−Black Out−

 入室パスをご請求になられるか否かを判断されます際の参考資料として、ある意味で最も当サイトのカラーが色濃く出ている作品の一つ、『Black Out』の第一話を抜粋致しました。本作は性的描写を含む事に加えてBL系の作品でもございますので(CPは姫条×氷室)、ご注意を。入室パスを請求するかどうかの判断材料としてお役に立てて戴けましたら幸いです。



 それは満月の夜だった。

 とあるアパートの一室にて、カーテンの隙間から微かに差し込んでくる月明かりに照らされて垣間見ることが出来るのは、ベッドの上で身を起こしている高校生くらいの少年と、その傍らでうつ伏せに横たわっている、一糸纏わぬ姿の女と…誰がどう見ても情事の後、といった様相である。
 しかしよく見ると、状況の不自然さに気がつくだろう。高校の男子制服に混じって落ちているであろう筈の、女性が纏っていたものと思しき衣服などは何処にもなく、その代わりにスーツやシャツや、ネクタイなどといった男ものの服だけが辺りに散らばっていた。
 抜けるように白い肌の持ち主はこの状況だけから判断すると女性かと思われても致し方ないのかもしれないが、その体つきに女性らしい丸みはなく、更に着ていたものと思しき衣服と併せて鑑みても実際には男性であると窺(うかが)い知れる。
 男がぐったりとその身を投げ出している様を見遣りながら、少年は自虐的な表情を浮かべた。


 そして少年は、ベッドから降りて床に落ちていたネクタイを手に取った。
 肌に心地よく艶やかなシルクの感触。高校の制服はブレザーなので一応ネクタイを締める事にはなっているが、いくらデザイナーズ・ブランドの制服だとは言っても規定のネクタイがこんな上等のものであろう筈がない。それ以前に少年自身は制服のネクタイなどまともに締めた例しがない。
 つまりこのネクタイは相手の男のものだという事になる。
 それだけではない。意識を手放したままベッドに横たわっている男が身につけていたと思しきものを見てみると、シンプルではあるがどれも普通の高校生には手が届かないだろう物ばかり。こういった持ち物などから鑑みるに、相手の男はおそらく社会人だろうと察せようが、実際その通りで、彼は少年が通っている高校の数学教師であった。


 今は眠っている教師の手首の辺りを見ると、何かで縛られた痕がくっきりと残っている。のみならず、白い肌のあちらこちらには自分が散らした紅い花が浮かび上がっている。
 別に興味本位とかではない。相手を痛めつけるつもりで、行為に及んだ訳でもない。彼の純粋さと不器用な優しさに触れた時、この人が欲しいと…そう思ってしまった。何を狂気じみた事をと自分でも思ったけれど、いつしか彼を求める心を抑える事の方が難しくなって…そして今夜ついにそれが暴走してしまった、という訳である。
 それでも、生徒である自分が教師を、しかも自分と同じ男を陵辱するなど。
 (何考えとんねや、姫条まどか…!)
 端から見れば正気の沙汰とは思えないその事実は、少年自身にとっても十分すぎるほど衝撃的で……
 全てを手にすることを望んでいた筈なのに、後悔だけが押し寄せてくる。



 その人の、目を覚ます瞬間が訪れるのが怖かった。


Written by Naoki Tatara/2003-2008
禁無断転載・複製




Back