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Preview−空に誓う− |
入室パスをご請求になられるか否かを判断されます際の参考資料として、ある意味で最も当サイトのカラーが色濃く出ている作品の一つ、『空に誓う』の第一部から、第一話を抜粋致しました。本作は性的描写といった意味での年齢制限がある作品ではありませんが、それとはまた別な意味で大人向けの作品でもございますので…入室パスを請求するか否かの判断材料としてお役に立てて戴けましたら幸いです。 最初にその知らせを聞いたときは、信じられなかった。ううん、信じたくなかったというのが正しいのかもしれない。 卒業証書を手に、アタシ達が再会を誓い合ったのはほんの数日前のことなのに。 それなのにもう、この世にいないなんて…… アタシの親友だった美雪ちゃん──笹岡美雪──は、おととい交通事故で死んでしまった。 まだ信じたくないのに、お葬式が始まろうとしているこの場にいると嫌でも美雪ちゃんの死を現実のものとして認めざるを得なくなる。 あのコが突然いなくなっちゃった事は、このアタシにとってもさすがにショックで…心の暗闇にはまり込みかけていたんだけど、友達に声を掛けられて我に返った。 「ねえなっちん。氷室センセ見かけなかった?」 「ヒムロッチ? ううん、見てないけど……」 氷室センセってのは、美雪ちゃんとこのクラスの担任だった先生の事だ。 考えてみたら、今日になってから一回もヒムロッチの姿を見てない。高校三年間ずっと美雪ちゃんの担任だったあのセンセが、今この場にいない筈はないのにだ。 何か、悪い予感がする───そう思った次の瞬間、アタシは駆け出した。 「あ…おい、どないしたんや、奈津実!?」 姫条の慌てた声が聞こえたような気もしたけれど、この時のアタシは構ってられなかった。 美雪ちゃんの家からほど近い住宅街の一角に、先生の家はあった。その玄関前に立った時点で既に、嫌な予感が思いっきりしていた。 「ヒムロッチ〜」 呼び鈴を鳴らしながら、さっきから付きまとう悪い予感を振り払うかのように、わざとらしいくらい明るい声を出してこの家にいる筈の先生を呼んだ。 「氷室センセー。いないんですかー?」 なのに一向に返事はない。それどころか家の中に人がいる気配すら感じられない。入れ違いになっちゃったのかもとも思ったんだけど、玄関の鍵が開いてる事が分かったからそれは無いだろうと判断してアタシは屋内へと踏み込んだ。 先生のものと思しき靴はちゃんとあるから、やっぱり留守にしている訳ではないみたい。それなのにまるで最初から誰もいないみたいに、家中がしんと静まり返っていた。 僅かな物音も聞き逃さないようにと思って耳を澄ませてみると、何処からか水の流れるような音が聞こえてきた。一体何があるのかと思ってその音のする方角をみると、洗面所へと通じるドアがあった。そしてその更に奥にはお風呂場があって、さっきから聞こえる水音はそこが発生源となっていた。 何か恐ろしいことが起きているような気がして、ここから先へと踏み込むのが躊躇われたけど…それでも意を決して扉を開けると、そこでアタシは現実だとはとても信じられないような光景を目の当たりにする事になった。 流れ続ける水と、流れ続ける血と…… その中に、氷室先生は倒れ伏していた──── Written by Mizuho Aikawa/2003-2008
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