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 以下は当サイト収録の創作『TESTAMENT』より、冒頭部分を抜粋したものです。現時点で収録されている創作類の中で最も当サイトらしい、かつ最もダークな本作。入室パスをご請求になられるか否かの判断材料としてお役に立てて戴けましたら幸いです。

TESTAMENT


 かちり、という音と共に鍵が回る。
 つい今し方まで鍵の掛かっていた引き出しから出てきたそれは、一通の手紙。書かれた文字の筆跡は、紛れもなく愛する男性のもの。
 手紙は、彼女に宛てられたものだった。

 ロザリアは恐る恐る、手紙の封を切った。
 そして中に入っていた便箋を取り出して、其処に書かれていた文章を読み始める……



Dear Rosalia

 君がこれを目にしている頃には、おそらく俺は既にこの世の者ではなくなっている事だろう。少なくとも俺は、その事を前提にしてこの先を書き進めていくつもりだ。

 これを最後まで読んだなら、君は俺を軽蔑するかもしれない。
 だからと言って俺は、救いは求めない。嫌悪を感じたなら、ためらう事なく罵って欲しい。そして君の持っている、炎のような苛烈さでもって断罪して欲しい。

 正直、書いてしまっていいものかどうか俺は今でも迷っている。
 けれども、もうこれ以上隠しておくような真似はしたくなかった。君の目を欺く自分を、許したくなかった。
 これから書こうとしている事は、君の目から見てもにわかには信じ難い事なのだろう。もしかしたら、ひどくショックを受ける事になるのかもしれない。

 それでも君にだけは隠したくなかった。知って欲しかった。
 俺という人間の、本当の姿を……




 光の守護聖ジュリアス。最も在位が長く、最も頼れる、守護聖達の長。
 自らに厳しく誰よりも有能な彼を、炎の守護聖オスカーは心から敬愛していた。そして、少しでもいいからこの人の役に立ちたいと心から思っていた。
 そんなオスカーをジュリアスは信頼し、己が片腕と認め…彼らの信頼関係は、二人が守護聖である限り続くかに見えた。

 炎の守護聖が女王候補の一人であるロザリアにひかれ始めたのは、一体いつ頃からだったのか、彼自身はっきりとした事は分からない。この宇宙を統べる女王となろうとする人に対して抱くのは禁忌とされる、日毎夜毎に烈しさを増していくその感情を、オスカーは自らの胸一つにしまい込んでいた。至高の座に就く事こそが彼の愛する少女の何より強い望みだと、痛いほどに分かっていたから。
 女王への階段をかけ昇っていく彼女のためにと秘めていたその想い。しかしそれは、ジュリアスの知るところとなった。
 「そう言えばオスカー、そなた最近下界には降りてないそうだな」
 「はあ……」
 光の守護聖の執務室で報告をひと通り終えた後、ジュリアスの口からそれとなく出た世間話。下界への無断外出はこの人にはあまりいい顔をされていなかった事なので、オスカーはきまり悪そうに頭をかいた。
 「何故…かは聞くまでもあるまい。そなたの想い人はこの飛空都市にいるのだろう。しかもその相手は女王候補……」
 そこまで耳にしたオスカーの顔色が、目に見えて蒼白になった。
 紫の髪の女王候補が女王位を望む限りにおいて、かの少女に対する彼の感情は禁忌以外の何ものでもない。女王はそのサクリアを有する限り、特定の個人と結ばれる事を固く禁じられているからだ。もしこの禁を犯したならば女王本人とその相手のみならず宇宙そのものにも破滅を招く事を、守護聖であるジュリアスが知らぬ筈はない。
 「どうして貴方がそれを…?」
 「そなた程に感情が容易く表に出る者も、そうはおらぬぞ。第一、そなたの事なら私には手に取るように分かる」
 つい、と椅子から立ち上がったジュリアスはオスカーの顎に手をかけて、その顔を自分の方へと向けさせた。
 そうして飛び込んできた視線は、狂気に彩られたそれ。
 こんなジュリアスを、自分は知らない。
 「な…何を…!?」
 逃れなければならない。それも、今、すぐに…!
 オスカーの中で何かが、激しく警鐘を鳴らしていた。
 なのに身体が動かない。蛇に睨まれた蛙のごとく。
 全身を硬直させている間にジュリアスは、そのままオスカーの唇を奪った。
 驚愕に見開かれる、アイスブルーの瞳……

 それが、オスカーにとっての悪夢の始まりだった。


To be continued...

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